U2 on YOUTUBE

[日々の雑記][音楽]U2 on YOUTUBE


10月25日(日本時間26日昼)はインターネットの世界ではちょっとした“革命”が起こった。

「U2UBE」というロゴからもYOUTUBEの気合の入りようが分かる。


U2の「360TOUR」のLA公演がYOUTUBEを通じて、世界同時中継された。
(今でもまだその映像は繰り返し観ることができる!)

http://www.youtube.com/watch?v=V4QLFVrZ-fw


しかも、ただの生中継ではない。YOUTUBEとは思えない、HDの美しい画質と音声を維持し、ライブ中、一度もサーバーが落ちることがなかった。(TWITTERでも、どうせ落ちるだろう、と意見が多かった)
GOOGLEは一体どんな準備でこの中継に望んだのだろうか? 想像を絶する。

そして、この日この公演を同時に観た人間は世界に何億人いたことだろう???


このライブ中継の画期的な点は、YOUTUBE特設サイトに囲みでTWITTERが用意されており、
つまり、このライブに世界中からのコメントが川のように流れていったのだ。
もちろん自分も書き込み、それを確認できた。

ただのバンドがこういうことをやったのでは、
それほど話題にならなかったのかもしれない。
(しかしTWITTERのTLを見ていると、U2には興味ないけど、この中継の偉大さには関心がある、
という旨のつぶやきも多かった)



肝心のライブについては、YOUTUBEのご時世なので、
ワールドツアーほぼ全公演の映像がネット上に上がっており、セットリストなどほぼ予想通りだった。
ただマニアックなことを言うと、
なぜシングルでもないし、アルバム後半に収められた地味な曲である
「BREATH」を一曲目に持ってきたのか今まで分からなかったのだが、
(はっきり言って昨日までは好きな曲ではなかった)
なるほど、イントロがラリーのドラムソロで、
そこからメンバーが入ってきて、
エッジのギターリフでがつん!と始まるという算段になっていた。


ツアー初日のバルセロナに比べると、新曲もこなれてきた感じがするが、
「CRAZY TONIGHT」が生演奏によるリミックスのみで、
原曲のアレンジが聞けなかったのは非常に残念である。
最新アルバムでエッジらしいディレイをかけたアルペジオが聞けるの
シングルナンバーはこの曲だけだろうし、
いかにもエッジだな、とファンだったらにやりとするのがこの曲だからだ。
でも、まああの生演奏リミックスも会場は盛り上がるからいいとしよう。


今回のツアーで個人的に感涙なのが、
ZOO TVツアー(日本公演もあったZOOROPAツアーではない)
のみで演奏されていた「ULTRA VIOLET」がアンコールに組み込まれていることだ。
U2屈指の隠れた名曲なのだが、ボノのキーが合わなくなったのか、
(このバンドは割りとライブ映えしそうな曲をなかなか演ってくれないところがある)
長らく封印されてきたが、蛍ピンの光を発する車のハンドルに組み込まれたマイクが
天井から下りてきて、ボノがぶら下がったりしながら歌う。
歌詞の内容が、「僕の道を照らしてくれ」というさ迷う男の心情をつづったものなので、
キラキラピカピカした演出を施したのか?とも思ったが果たして・・・。


話を戻すと、
ビートルズはライブを途中でやらなくなり、
ストーンズはメンバーが離脱し、
パンク革命は潰え、
オアシスといった後輩ですら空中分解というロックの歴史の中で、
理想の旗を降ろすことなく、
音楽的にも実験を繰り返し、しかし、毎回毎回、「偽善者」「暑苦しい」「うっとおしい」と揶揄され、社会的活動・人道支援なども叩かれながらその度に不屈の精神で立ち上がり、
しかも高校の時に組んだメンバーそのままに30年以上活動し、世界のトップにあり続ける。
これがどれだけしんどく、かつ偉大なことか。やはり彼らは奇跡のバンドである。
マイケル・ジャクソンを語る西寺郷太さんが、「マイケルは教科書に絶対載る」と言ったが、僕は、後世、U2も世界のどの国かの教科書に載ると思っている)


なぜどのバンド、どのイベントに先駆けて彼らが
GOOGLEと組んでこの画期的なブロードキャストをやったのか。
スティーブ・ジョブズと組んで、iPodをやったこともあり、
単なる新し物好きと思われてる部分があるのではないかと危惧する。


それは「彼らがロックを信じているから」、それに尽きるのではないか。


プレスリーが腰を振って黒人と白人の音楽のキャズムを乗り越えた半世紀前からずっとそうだ。
「思春期の焦燥」。それが例え、好きな女の子へのラブソングだろうと、反政府的なメッセージソングだろうと、
少年の心に宿る夢想、憧れ、孤独と、それに反発するように燃え盛る蒼い情熱の炎。
ロックというのは絶え間ない前進主義、進歩主義を体内に内蔵した音楽なのだ。


だからこそ、彼らの曲の大半もラブソングであり、そして同時に社会的なメッセージも帯びている。
キング牧師に捧げた「PRIDE」は、
「バルコニーで撃たれた男の体は死んでもその魂に宿る誇りは奪われることはない、愛という名のもとでは」
と歌われる。
この曲はオバマ就任のセレモニーでライブで演奏された。


アメリカのエルサドバドル侵攻を怒り(「BULLET BLUE THE SKY」)
アウンサン・スーチーの解放を訴え(「WALK ON」)、
イラク戦争の宗教間の断絶に疑問符を投げる(ライブでの「SUNDAY BLOODY SUNDAY」)。


97年には、ユーゴ内戦後、初めてサラエボでライブを演り、
9.11直後にはどのミュージシャンにも先駆けて、ステージに被害者の名前を載せた幕が上げて追悼を行った。
彼らアイルランドという辺境から世界にうって出てきたバンドにとって、
WTセンターの救出のために命を捨てた同胞が多くいた救急隊員の死を悼むことは
至極普通の感情・行動だったと思う。


アイルリッシュの彼らだかこそ、世界のマイノリティへのまなざしはいつも優しい。
84年のライブエイドから続く、アフリカ支援の活動。
ボノは夫人とともに、エチオピアのキャンプで2週間実際に生活をする。
そのときの想いが綴られた曲が、彼らの代表曲で、ライブでは彼らの行進曲ともなる「WHERE THE STREET HAVE NO NAME」。
世界中をライブで回り、世界中のファンから十分すぎる愛と報酬を受け取っても、彼らはとどまることをやめない。むしろ、その活動は加速している。


「世界中のファンが今度はU2にアクセスするんだ」
そんなことが今回の世界中継では謳われた。
「Magnificent」の前に、
「世界は今何時だ?何をやっている?香港!シドニー!ダブリン!サンパウロ!モロッコ!」と
モニタから見つめる世界のファンにボノは呼びかけた。


アンコール前のラストで歌われた「ONE」のヴァースに1つの答えがあると、僕は思っている。
「われわれは1つ。でも同じじゃない。だから支え合わなくては」


この世界の多様性を認めながら、それでも1つになろうと呼びかける勇気、意志。
その決して実現はできないかもしれない夢であっても希求せざるをえない熱情。


だからこそ、僕はどれだけ「ダサい」と馬鹿にされようと、
彼らを高校生の頃から追っかけ、10年前にはダブリンにあるボノの家まで押しかけて、
(結局、門番に追い返されたのだがw)
昨年、慶應大学での名誉授与式ではボノと肩を組んで話しながら歩いてしまった。
(その時は、通信社の写真や映像に映り、仕事をサボって駆けつけたことがバレてしまって大変だった)


ジョン・レノンは神となり、日本では毎年その意志を継ごうとするライブが催されている。
ジョンは死んで伝説になったけど、僕らは生きていかなくちゃならない。
15年前、カード・コベインが死んでも世界は何も変わらなかった。
大げさではなく、彼らから勇気をもらい、僕は今まで生きてこられたような気さえする。
そんな彼らが業界のしがらみなど、ぶち破って、世界中のオーディエンスに、無料でライブを届ける。そして、ライブ映像の下では、文字通り、世界中の人間の言葉がネット上を駆け回った。


でも、やっぱりバンドなんだ、ロックンロールなんだ、
き真面目なだけが彼らの取り柄じゃない。
でかい音を世界中に届けて、みんなとどでかいパーティをやるんだ、
そんな好奇心に満ちたステージでもあった。
毎回、ステージ装置にも最先端技術を駆使した大胆なセットを組む彼らだが、
今回のツアーはおそらくロック史上最大、360度ぐるりから見渡せる「クロウ」と名づけられた、まさに巨大カラスが4本の足を下ろしたようなセットとなって観客の度肝を抜く。
(このクロウの足でアリーナの客が観にくいという苦情も多く批判もされている。ま、やりすぎてしまうところはボノの真骨頂でもある)
環境問題にも心血を注ぐ彼らだが、パーティやお祭りの時ぐらい電気を使ったっていいじゃないか。
このライブでどれだけの人の心が高揚されたことか。
僕もTWITTERに書き込みをしながら、ライブを観た。
気づくと、ダイレクトメッセージが世界中からすごい数届いていた。


この日の中継を観た人はあの時間だけは確実に「ONE」になったライブだった。
それが実感できるテクノロジーをわれわれは享受できる時代になった。
世界の見方を変えれば、
イラク戦争があり、恐慌が起こり、20世紀の巨像のようなアメリカは倒れ、
黒人が大統領になり、
日本も政権交代が起こった。
時代は確実に変わりつつある。
21世紀は明るい、明るくするのは僕ら自身の想像力、世界の見方次第…そんなことを考えさせてくれた中継。今後、ワールドカップや五輪、ストーンズやマドンナなどもこの手法を使うだろう。


でも、いつも最初にやるのはU2だ。
いつか彼らには宇宙でライブをやってほしい。
そして、地球にいる僕らと交信してほしいものだ。


「GET ON YOUR BOOTS」を演る前に、歌詞にもあるセリフ、
「FUTURE NEEDS A BIG KISS!」というフレーズを叫んだボノ。
そう未来はどでかいキスを待っている。