古今東西の小説や脚本のネタ本『神話の力』

「米田智彦のトーキョー遊動日記」 vol.037
2013年12月13日(金)発行より




▼近況コラム


20世紀の比較宗教学者、ジョーゼフ・キャンベルが書いた『神話の力』という本をご存知ですか?
世界中の英雄譚や伝説にはある一定の法則があるという内容で、小説や脚本を書く人なら多くの人が読んでいる本です。
あの村上春樹もこの本におそらく大きな影響を受けて、小説の構造に取り入れていると言われています。

この本にインスパイアされ、映画や小説のシナリオテクニックに応用したのがクリストファー・ボグラーが書いた『神話の法則』です。

ボグラーは古今東西の神話の中には、人間が体験する物語の12のステージ、8パターンのキャラクターという雛形が全てつまっていて、それを類型化できると語っています。

村上春樹の他にも、キャンベルの本に影響を受けたのが、映画監督のジョージ・ルーカスです。彼の代表作「スター・ウォーズ」シリーズは、一人の青年が「出立」「通過儀礼」「帰還」という3つの構造を経ながら成長する物語を初期3部作で見事に描いています。

何より、ご存知かもしれませんが、「スター・ウォーズ」のあの有名なイントロは、宇宙を舞台にした未来のお話のはずが、「遠い昔、はるか銀河系の彼方で……」という太古の神話風に始まるのです。

他にも「ロード・オブ・ザ・リング」とか「マッドマックス」とか「マトリックス」とか、そりゃもう、キャンベルか、それをアレンジしたボグラーの影響を受けていると思われます。

おそらく日本のマンガやアニメに転用した作品も多いと思います。
そういえば、「ドラゴンクエスト」でも「ファイナルファンタジー」でも、神話風の物語ですよね。


その構造というのは具体的に言うと、ざっとこんな感じです。

1、 日常世
2、 冒険への誘い
3、 冒険の拒否
4、 賢者との出会い
5、 新しい世界への入り口
6、 試練、仲間、敵の登場
7、 危険な場所への接近
8、 最大の試練
9、 報酬
10、帰路
11、 復活
12、 宝を持ち帰っての帰還

という流れです。
「あの映画やあのマンガも確かにそうだ!」
と思い当たる節がありませんか?


映画や小説で、構成が強い、というのは、主人公が上記のような試練を経て、成長するからなんです。だから、ラストで鑑賞者や読者は感情移入をして一緒に旅をしたり、成長したりしたような気分が得られるというわけです。


そこで、僕はこんなことをよく考えるんです。
自分が自分の一生という物語の中だと、この12個の項目でどの辺にいるんだろうか? と。

生きるうえで避けられない障害(別離、裏切り、喪失など)は多々ありますが、キャンベルやボグラーの本に出会って以来、「人生ってそういうものなんだよな〜」と何となく俯瞰するもう一人の自分がいるような気持ちになったんです。

物語の構造というのが理解できていれば、人というのは必ず<試練>に出会い、一度瀕死になって、やがて<帰還>すると思うことができます。やけになって、悲劇的な結末は避けられるのかもしれませんし、悲嘆に暮れることが少し楽になるかもしれません。

なぜなら、もういっぱいいっぱいに囚われている目の前の困難の先には宝の報酬があるかもしれないという期待がもてるからなんです。
それは自分の成長だったり、経済的な成功だったり色々だとは思います。でも、これは自己暗示に近いのですが、物語の主人公は必ず<還ってくる>んですよね。

僕は、ノマド・トーキョーを2年前にやり、今年、自著としてようやく出版することができましたが、この間は、人生で心身ともに最もタフでヘヴィな時期でした。

ノマド・トーキョー中は震災がありました。その直後に、親しい人との死別と離別が本当に隔月誌のように訪れました。実は一度入院もしましたし、救急車にも運ばれました。鬱状態に陥り、一週間外に出れなかった時期もありました。
当時は「やっちまった!」とか「なんでこんなに災難が連続するんだ」と嘆いたものです。


でも、今では、「あーそんなことあったなー!」と全て終わって笑って話せることです。人が生きていくうえで、誰もが通過することでもあるし、それは前に進むための<イニシエーション>なんだ、そう言い聞かせる自分がいつもいました。

なぜなら、人の人生も、人生という物語も上がって下がり、下がって上がるからです。
世界中の神話や物語にそのことが書かれてあります。


主人公が穴に落ちる。
穴から出てくるか、穴に落ちたままか。ものすごく乱暴に省略すると物語とはそういうものです。


何かを失って、そのことで凹む。
でも、その凹みに本人が思ってもみなかったことが、パカッとハマる。

僕はクールな人間ではありません。トークショーをやるとき、稀に、お客さんから、出身大学やフリーランスで活動しているという理由で、「元からエリートのように思えた」、「成功者に見える」、と言われることがあってものすごく驚きます。

表面上は取り繕ってるだけで、懊悩し、七転八倒しながら、匍匐前進のように這いながら、今に至る感じです。

そして、寺山修司的にいうと、「人生曇ったり降ったり」、そして、たまに晴れたりです。

人生という長期戦の何処かで「晴天」が来て、それこそが我が人生、とは全く思ってないんですね。
人生の殆どは、曇りか時にどしゃ降りで、その時を、不幸と思うと、人生の大半が不幸だと思い込んでしまうと思っています。

どしゃ降りの中の軍の進軍や撤退こそが人生の時間の多くだと思ってます。有能な指揮官は撤退戦にこそ、その能力を発揮するとは昔から言われていることです。

だから、人生の撤退戦、それさえも楽しんだ方がいいとさえ思います。ま、当事者であるときはものすごく大変な状況なんですが。

僕らの人生も古代の神話となんら変わらない。馬や戦争や狩りが出てこないけれど、それは仕事や恋愛になっているだけかもしれません。表面上は、戦争も騒乱も起こってなくても、


神話のようなストーリーの展開がなぜ繰り返し繰り返し小説や舞台、映画やマンガで登場するか。人間という生き物は、どの部族、どの国民でも、昔からあまり変わってないんですね。


僕は、人間の内面には、「自分だけの神話」がいつもあると思っています。


神話の研究というのはとても面白いので、興味があったら、キャンベルやボグラーの本を読んでみて下さい。
ただし、訳がひどいので結構難しいですよ(笑)。


さて、ライフデザイン関係以外にもこういったコラムを「トーキョー遊動日記」
http://theory.ne.jp/yoneda_tomohiko/

では毎月2本書いていますので、ご興味を持った方は初月無料なので入会してみて下さい。


神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

神話の法則―ライターズ・ジャーニー (夢を語る技術シリーズ 5)

神話の法則―ライターズ・ジャーニー (夢を語る技術シリーズ 5)

  • 作者: Christopher Voglar,クリストファーボグラー,岡田勲,講元美香
  • 出版社/メーカー: ストーリーアーツ&サイエンス研究所
  • 発売日: 2002/11
  • メディア: 単行本
  • 購入: 5人 クリック: 34回
  • この商品を含むブログ (13件) を見る